建設業許可で求められる雇用保険を社会保険労務士が解説します。
建設業許可の取得を検討されている方ですと、社会保険や雇用保険へ加入しなければならないという話を耳にされたことがあるかと思います。しかし、各種保険がどのようなものなのか、また建設業許可における雇用保険とはどのようなものなのかよくわからない。という方もおられるのではないでしょうか。
このページでは、建設業許可における雇用保険への加入義務について建設業専門の社会保険労務士が解説いたします。
このような方へ向けた内容となっています
- 雇用保険って何?という方
- 建設業許可取得には雇用保険加入が必要だと聞いたがよくわからない方
- 雇用保険の適用除外について知りたい方
建設業許可でなぜ雇用保険が必要なのか
建設業法の改正により雇用保険の加入義務化
令和2年10月に建設業法の改正があり、経営業務の管理責任者の要件として、下記2つが求められることとなりました。
- 適切な経営能力を有する事
- 適切な社会保険等に加入している事
この2つの両方を満たしていないと経営業務の管理責任者になる事ができませんので、どちらかが欠けていた場合は建設業許可を取得することができない。という事になります。
適切な社会保険等に加入とは?
経営業務の管理責任者の要件にある「適切な社会保険等に加入している事」とはどのような事をいうのでしょうか。言葉の意味を確認してみたいと思います。
適切な社会保険等への加入(健康保険、厚生年金保険及び雇用保険)
社会保険等のうち、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険にそれぞれ適切に加入している者を、経営業務の管理を適切に行うに足りる能力を有する者と認めます。
建設業許可の手引きより
「適切な社会保険等に加入している事」という用語の説明自体はご理解いただけたかと思いますが、「社会保険等」や、「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」というそれぞれの単語の意味についてもう少し深めて確認したいと思います。
建設業許可でいう社会保険等とは
まず、社会保険という言葉の意味について考えてみましょう。社会保険という言葉の枠には健康保険、厚生年金保険が含まれます。ここに雇用保険は含まれません。
雇用保険は労働保険という枠の中に含まれます。そして労働保険の中には労災保険というものもあります。
これら2つの枠の事を合わせて、建設業許可上では社会保険等という呼び方をしています。
用語の属性を整理すると下記のようになります。
建設業許可上の社会保険等
社会保険
健康保険
厚生年金保険
労働保険
雇用保険
労災保険
上記図の形を変えると下記のようになります。
建設業許可上の総称 | 属性の枠 | 個別の保険関係 |
社会保険等 | 社会保険 | 健康保険 |
厚生年金保険 | ||
労働保険 | 雇用保険 | |
該当なし | 労災保険 |
ここでの注意して見て頂きたいことは、労災保険は建設業許可上の要件とはされていないことです。ただし、労働者を一人でも雇った場合は、労働者災害補償保険法において労災保険への加入は義務となりますので、事業運営上の加入は必須であることに変わりはありません。
法令順守、コンプライアンス意識の高まり
雇用保険加入に対する考え方
雇用保険に加入しなければいけないのか?という点について考えてみたいと思います。
以前より、雇用保険法上は労働者を1人でも雇ったら原則加入が義務となっています。しかし、建設業許可の面では令和2年の建設業法改正前までは雇用保険への加入は要件とされていませんでしたので、加入しているかどうかについて建設業許可申請上では何ら問われるものではありませんでした。しかし、改正により雇用保険への加入は建設業許可の要件とされましたので、未加入の場合は建設業許可申請を受け付けてもらう事が出来ず、当然に許可は取得できないこととなりました。その点からしても加入している必要がある事となります。
原則、雇用保険未加入業者は建設業許可を取得できません。
コンプライアンスと雇用保険
もう1つ別の視点で見てみると、コンプライアンス意識の高まりがあげられます。
建設業許可を取得するということは、財務、専門知識や経験、法令の面において、建設業法で求められた要件をクリアしている事を表すものでもあります。すなわち、一定の基準ラインを超えているという事を第三者(国土交通大臣・都道府県知事)が確認の上で認めたというお墨付きにもなります。
建設業許可申請では雇用保険に加入していないと許可はおりないため、建設業許可があるという事は、当然に雇用保険にも加入しているという事となります。
実際に建設業の事業を行う上では、元請が下請けへ仕事を発注する事が多くあります。元請の立場としては下請が先に挙げたいくつかの面において安心・安全であることを自社で確認をしなければなりません。それを各下請に対して個別に行う事は時間と労力を要するものです。そのため、元請が一定の安心・安全を担保するため、下請へ建設業許可の取得を求める事が近年増えてきています。
建設業許可にはコンプライアンス・法令順守を一定程度確保する意味合いもあります。
建設業許可申請書への雇用保険番号記載
建設業法の改正により、現在では雇用保険に加入していない建設業者は、建設許可を取得できません。適用除外の場合を除きます。
具体的には、建設業許可申請の際に健康保険等の加入状況を記入する申請書があり、ここへ雇用保険の事業所番号を記入することが求められます。
雇用保険の事業所番号は11桁の番号で構成されているものです。労災保険の労働保険番号と間違えやすいので注意が必要です。
雇用保険番号は、下記サンプル図の赤矢印の箇所となります。
雇用保険適用除外の場合は、青矢印の箇所をご確認ください。雇用保険の加入状況の番号を2と記入することで適用場外の扱いであることにて申請ができます。
雇用保険とは何なのか
雇用保険の概要
雇用保険の内容は細かく分かれていますが、概要としてご理解いただきたい点は、働く人に何かがあった時に給付が受けられる保険制度であることです。
図をご覧いただくと雇用保険の内容は多岐にわたることが見て取れると思います。身近なものをあげると、万が一の失業の際でも助けになる「失業等給付」(通称:失業保険)があったり、子育ての際にも収入を確保するための「育児休業給付」、介護の際に給付される「介護休業給付」があります。
このように、働く人を支えるための保険が雇用保険となります。
建設業許可で求める雇用保険の位置づけ
建設業許可を取得しようとする会社や事業所で働く人が失業等によって収入確保が難しくなった時でも支えとなる雇用保険への加入を義務化することにより、より安心して働ける仕組みとすることを建設業許可では求めるものとなります。
雇用保険の加入義務と適用除外
原則:労働者を1人でも雇ったら雇用保険加入義務
労働者を1人でも雇ったら雇用保険の加入義務
雇用保険の概要としましては、上記のようにご理解いただけるとわかりやすいです。社員が入ったら雇用保険です。
注意点
加入義務のある労働者のすべてが加入していなければ建設業許可でいうところの加入した扱いにはなりません。これらの加入は従業員本人の意思とは関係はないことがポイントです。
上記は原則でありますため、状況によっては例外もあるので下記にてご説明します。
雇用保険加入の適用基準
下記の1.2.のいずれにも該当するときに雇用保険の被保険者となります。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
具体的には、次のいずれかに該当する場合をいいます。
- 期間の定めがなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上である場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
- 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
注)法人の役員、個人事業主、学生(昼間の部)等の適用除外要件はあります。
これがどのような意味なのかをもう少し分かりやすくみていきたいと思います。
例えば、会社で働く社員(正社員・契約社員・パート・アルバイト等含む)ですと31日以上継続して働く労働契約であることが多いのではないでしょうか。その場合、雇用期間が31日以上となりますので1.の要件にあてはまることとなります。
次に、1日4時間、週5日勤務の条件の場合ですと、2.にある20時間以上の要件を満たすものとなります。
もちろん雇用保険の加入条件に該当しない労働者もいるわけですが、恐らくは会社や事業所で働く方々の多くは加入条件に該当することが多いのではないでしょうか。従いまして、原則的な考え方としては、労働者を雇用したら雇用保険に加入義務がある。という理解でいれば未加入という間違いが起こりにくいと思われます。
雇用保険の適用除外
上記の適用要件に該当しない方の場合は雇用保険は適用されません。また、法人の代表者や役員、一人親方等の個人事業主は労働者ではないので加入することができません。このような場合は雇用保険の適用除外とされます。
その場合、雇用保険に加入できないので建設業許可の申請ができないのか?と思われる方もおられるかと思いますがご安心ください。適用除外にあたる場合には適切な社会保険等に加入しているものとみなして扱われますので建設業許可申請は可能です。
※ここでも例外はありますが、省略します。詳しくは建設業許可の手引をご覧ください。
- 常勤者が役員しかいない法人(一人親方を含む)
- 従業員が次の雇用形態しか該当しないもの
- 週の労働時間が20時間未満の者
- 31日以上継続して雇用する予定がない者
- 学生(昼間の部)
雇用保険加入手続きの流れ
労働者を雇用したから雇用保険に加入しようとしても、初めての雇用の場合は会社として加入する必要があります。これを、雇用保険適用事業所設置届と言います。その手続きと同時に雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
また、雇用保険が属する労働保険の中には労災保険もあるため、労働者を初めて雇用する場合はこの手続きを同時に行う事も必要となります。
更に、労働保険関係は一般の業種が対象となる一元適用と、建設業等の業種が対象となる二元適用という2つの種類に分かれます。ここでは建設業許可業者向けの説明となるので、二元適用の流れについてのみ説明します。
建設業者が該当|二元適用手続きの流れ
建設業者が初めて労働者を雇用した場合と、2回目以降の雇用の場合を下記にて説明します。
初めての場合は、事業所として雇用保険と労災保険の適用を受ける手続きを行い、それに対して労働者が雇用保険に加入するという流れになりますので、初めての場合だけ複雑になります。
下記を管轄の公共職業安定所へ届出
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 労働保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
管轄の労働基準監督署へ届出
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
※以下、労災保険の手続き説明は省略
「雇用保険適用事業所設置届事業主控」が発行されます。
会社で雇用保険の適用が受けられることを証明する書類で、ここには雇用保険の事業所番号が記載されています。建設業許可ではこの雇用保険の事業所番号を申請書に記載する必要があります。
労働者が会社の雇用保険に加入したことを証明する書類です。下記が送られてきます。
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)
- 雇用保険被保険者証
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用)
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
雇用保険加入の届出期限
雇用保険加入は管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出することで行います。
提出期限は、雇用保険の被保険者に該当する事となった月の翌月10日までです。
入社した月の翌月10日までに提出。という理解が覚えやすいでしょう。
この手続きが完了すると、「雇用保険被保険者証」と「雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知書)」が交付されます。
建設業許可申請の際に必要な保険関係の書類
建設業許可申請の際に必要な保険関係の書類をご案内いたします。健康保険と厚生年金の必要書類はここでは省き、雇用保険に求められる必要書類のみをご案内します。
雇用保険の加入状況の確認(添付)書類
納付や加入の状況により用意する書類が異なりますので、ご自身が下記のどれに該当するのかをご確認ください。
自社で申告納付の場合
①「労働保険概算・確定保険料申告書」(受付印があるもの)の写し
+
②「領収済通知書」の写し(領収日付印があるもの)
※「領収済通知書」は領収印のないものは不可
口座振替を利用している場合
①「労働保険概算・確定保険料申告書」(受付印があるもの)の写し
+
③「労働保険料等振替納付のお知らせ(はがき)」の写し
※①に「口座振替」と印字されている場合は、①のみの提出で可。
労働保険事務組合に委託している場合
④「労働保険料等納入通知書」の写し
+
⑤「労働保険料等領収書」の写し
※労働保険番号の記入がない場合には、番号がわかるものを添付
※④に「口座振替」と印字されている場合は、④のみの提出で可。
その他
⑥労働局が発行している「労働保険料納付証明書」の写し
備考:雇用保険料等の支払い期限未到来の場合は、未到来分の領収書等提出は不要です。
雇用保険加入の確認として、労働保険の申告書類が求められていることがポイントです。
建設業許可における雇用保険のまとめ
いかがでしたでしょうか。雇用保険とはどのようなものなのか、建設業許可申請においてはどのような扱いとなっているのか、適用除外とはどのような場合の事をいうのか、申請時に雇用保険関係の書類としてどのようなものが求められるのか、労働保険の番号を記載する必要があること。適用除外であれば加入義務はないこと。
などをご説明いたしました。
建設業許可申請をされる際にはより詳細をご理解いただいた上で手続きを進める必要がありますので「建設業許可の手引」をご確認いただく必要はありますが、建設業許可申請における雇用保険がどのようなものなのかの概要のご理解はいただけたのではないでしょうか。
ご不明点がありましたら当事務所までご相談ください。
建設業者向け代行手続きのご案内
全国対応/スポット対応/顧問契約不要
当事務所では建設業者向けに下記手続きの代行を承っております。
全国対応/スポット対応/顧問契約不要です。お気軽にご相談、ご依頼ください。
下記手続きのスポットご依頼承ります。
合わせてご相談、ご依頼ください。
下記でスポット手続き全般についてご案内しています。ご覧ください。